大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成10年(行ウ)47号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、兵庫県三田市に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成一〇年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告の本案前の答弁

本件訴えを却下する。

三  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

第二事案の概要

本件は、三田天満神社の正遷宮行事の参加者休憩所として学校施設を使用させたのは政教分離に反するとして、使用許可及び使用料免除の専決をした被告に対し施設使用による損害の賠償を求めた住民訴訟である。

一  前提事実(証拠を掲げた以外の事項は、当事者間に争いがない)

1  当事者

原告は、兵庫県三田市(以下「三田市」という。)の住民であり、被告は、平成九年一二月二二日当時、三田市教育委員会教育総務部教育総務課課長であった。

2  平成一〇年四月一〇日から同月一二日までの三日間、三田天満神社の正遷宮行事が行われ(甲56)、同月一一日及び一二日の両日、三田小学校の施設(運動場及び体育館)が、右正遷宮行事参加者の休憩場所及び駐車場として使用された。

3  被告は、平成九年一二月二二日当時、三田市教育委員会教育総務部教育総務課課長として三田小学校の教育施設目的外使用申請に対する許可(使用料の決定を含む。)の専決権限を有していた。右同日、三田天満神社正遷宮実行委員会会長Aから、三田小学校校庭及び体育館につき、使用時間を午前九時から午後六時までの間、使用目的を三田天満神社正遷宮行事参加者(校区内)の休憩及び昼食・駐車、使用人員を四〇〇〇人とする、教育施設目的外使用申請がなされ(甲5)、被告は、専決により右申請に対して許可の決裁をし、その使用料を免除した。

4  三田市は市立学校施設の目的外使用について、三田市立学校施設目的外使用条例(昭和三七年四月一日条例第九号。以下「本件使用条例」という。)を定めており、その内容は次のとおりである(甲4)。

「(定義)

第2条 この条例において学校施設とは教育委員会(以下「委員会」という。)の管理する学校及び幼稚園の建物及び土地をいう。(使用申請)

第3条 学校施設を使用しようとする者は、使用の7日前までに別に定める使用申請書を提出して委員会の許可を受けなければならない。

(許可)

第4条 委員会が前条の申請に基づき、学校施設の使用を許可しようとするときは、あらかじめ学校長又は園長の意見を聞かなければならない。ただし、次に掲げるものは使用を許可しない。

(1) 教員室

(2) 事務室

(3) 保健室及び休養室

(4) 特別教室(音楽教室、家庭科教室及び多目的教室を除く。)

(5) 教材室及び準備室

(6) その他校長、園長において支障があると認める施設

2 前項の使用を許可するときは、委員会が別に定める許可書を交付する。

第5条 委員会が使用を許可したときは、別表に定める使用料を徴収する。

2 既設電灯以外の電力及び水道の使用は、実費を加算する。」

「(使用料の減免)

第7条 次の場合は、使用料を減額し又は徴収しないことができる

(1) 公用に供し、又は公益のために使用する場合

(2) 委員会が特に必要と認めた場合」

「別表

8:00~12:00 12:00~17:00 17:00~22:00

屋内運動場 800円 1,000円 1,500円

教室(一室につき) 250円 300円 450円

運動場 400円 500円

二  被告の本案前の主張

1  財務会計行為性

(一) 住民訴訟の対象となる事項は、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とする住民訴訟制度の目的に照らし、財務的処理を直接の目的とする財務会計上の行為又は事実としての性質を有するもの(財務事項)に限られると解すべきである。したがって、財務会計上の行為又は事実としての性質を有しないところの一般行政上の行為又は事実は、住民訴訟の対象とはならない。

本件において原告が主張する損害賠償請求権は、小学校施設の使用許可が違法になされた結果生じたというものであるが、小学校施設の使用許可は、もっぱら施設管理上の見地からなされるものであって、小学校施設としての財産的価値に着目し、その価値の維持・保全等を図る財務的処理を直接の目的とする財務会計上の財産管理行為ではないというべきであるから、財務会計上の行為ではない。

したがって、本件訴訟は、住民訴訟の対象外の事項を対象とするものであって、不適法である。

(二) 原告は、仮に目的外使用許可が財務会計上の行為に該当しないとしても、使用料免除は財務会計上の行為に該当する旨主張するが、行政財産の目的外使用許可は、行政財産としての用途、目的を妨げない限度において、使用を許可するものであり、その場合、地方自治法(以下「法」という。)二二五条により使用料を徴収することもできるとされているが、使用料を徴収するかどうかは、行政財産としての用途、目的を妨げない限度において許可するという判断と一体となっていると解すべきである。原告の主張は、許可処分と使用料免除という行為は別のものであるという主張のようにも解されるが、これを区分して考えるべきではない。

行政財産の目的外使用許可があった場合について、目的外使用許可処分と切り離して使用料を徴収したかどうかが住民訴訟の対象となると解するならば、実際上は、本来非財務会計士の行為である目的外使用許可処分についても、住民訴訟の対象となり得ることを広く認めることになるから相当でない。

2  監査請求と本件訴訟との同一性

監査請求を経ない住民訴訟は不適法であるから、監査請求の対象とされた事項と住民訴訟において審理の対象となる事項との間に同一性が認められない場合も、当該住民訴訟は監査請求を経ない訴えとして不適法となる。

本件の監査請求の内容は、平成一〇年四月一二日、三田天満神社の正遷宮祭行事に三田小学校が使用されたことについて、三田市長に対して、三田小学校長を懲戒すること及び使用者に使用料相当額を請求することを求めるというものであるのに対し、本件訴訟における請求内容は、被告に対して、右三田小学校の使用許可の決裁をした上、使用料を免除したことにより三田市に損害を与えたからその賠償をせよというものであって、監査請求と訴訟とでは、求める措置の内容も措置の相手方も異なっている。したがって、本件においては、監査請求の対象とされた事項と住民訴訟の対象とされた事項との間に同一性が認められないというべきであるから、本件訴訟は監査請求前置の要件を満たしておらず、不適法である。

三  被告の本案前の主張に対する原告の反論

1(一)  一般に、施設・設備・機械等は、その使用によって財産的価値を低下させるので、財産の利用は住民訴訟の対象となる。本件三田小学校の運動場及び体育館の使用により、その財産的価値を低下させることが予想されるから、本件使用許可も財務会計上の行為に該当するというべきである。

違法又は不法に財産の管理を怠る事実とは、行政財産を目的外に許可使用させている場合に許可条件に著しく反する使用がなされていることを黙過している場合等を意味するとされているように、法二三八条の四第四項による行政財産の目的外使用許可処分は、住民訴訟の対象となる財務会計上の行為に該当すると解すべきである。

(二)  仮に、本件三田小学校施設の使用許可は財務会計上の行為に該当しないとしても、本件のように三田小学校の使用許可が違法であれば、その違法行為に対する使用料免除という財務会計上の行為も違法となる。本件使用条例五条によれば、「委員会が使用を許可したときは、別表に定める使用料を徴収する。」と定められており、申請者が任意団体である場合は必ず使用料を徴収することになっているのに、本件の場合、使用料を徴収していない。これは、直接的に住民訴訟の対象となる財務会計上の行為に該当すると考えられる。

(三)  右のとおり任意団体に対して使用を許可したときは必ず使用料を徴収することになっているのに、被告は使用料を免除して徴収していないことにより三田市に損害を与えた。また憲法八九条に違反する使用許可をしたことにより、三田市に損害を与えた。被告に損害の賠償を請求しないことは、直接的に住民訴訟の対象となる財務会計上の行為(怠る事実)に該当する。

2  住民監査請求は苦情処理的性質を持つものであって、これに法的厳密性を求めることは酷である。本件の場合、住民監査請求と住民訴訟において、いずれも、三田天満神社正遷宮行事のために、平成一〇年四月十二日に三田小学校の施設が使用されたことを問題にしており、その対象とするところは実質的に同一である。

四  原告の請求の原因

1  被告が行った三田小学校施設の使用許可、使用料の免除は、次のとおり、違法である。

(一) 三田天満神社正遷宮(祭)行事は宗教行事である。

(1) 三田天満神社は、学問の神様・五穀豊穣の神様として全国に五千余ある天神様のうちの二五社天神の一つである。昭和二七年に宗教法人となり、菅原道真らを祭神として、神社神道に従って祭祀を行い、宗教法人神社本庁をその包括団体とする。その正遷宮(祭)とは、三田天満神社で二五年に一度行われる祭事であって、傷んだ本殿などの修復、新増改築などに伴い、いったん別の場所に移したご神体を再び本殿に戻す時に行われ、改めて神様に鎮座願い、引き続きそのご加護のもと、五穀豊穣、除災与福を願うことを目的とする宗教行事である。その行事は、この三田天満神社の氏子達や同神社を崇拝する人々によって行われ、また、この三田天満神社に奉納するのぼりさし・だんじり・境内を清める砂持ち行列・ご神体である菅原道真公の銅像を乗せた牛車等が通る主要な道路の両側や三田小学校の校門・柵に、しめ縄を巡らしての神道方式により行われた。

三田天満神社正遷宮行事の主催者である三田天満神社は、「四半世紀に一度の神事」と明確に宗教行事であることを宣言している。

(2) 被告は、見かけ上参加者が多勢であることを理由に地域全体の習俗的行事と主張するようであるが、自治会活動の中に三田天満神社関係の活動が数多く入り込み、住民が自治会から宗教を排除してほしいと要望しても、役員として自治会を牛耳る氏子によって無視され、自治会の会計から宗教会計を分離しないで奉賛金が同神社へ支出されている実体があり、他方、子供会・老人会が自治会の中に置かれ、ゴミステーションが自治会の管理であるなどのため、自治会の退会が困難になっていることから、住民が自治会に入会し、同神社の宗教行事に参加することは、選択の余地のないことであり、参加者が多いことをもって習俗的行事とはいうことはできない。

(二) 三田天満神社正遷宮実行委員会は、その名のとおり、右に述べた三田天満神社正遷宮(祭)を実行するために設けられた宗教上の組織又は団体そのものである。

(三) 三田天満神社正遷宮行事のために、その構成員である氏子達により三田小学校施設が使用されたことは、三田天満神社信仰に対する援助と他宗教に対する威圧になり、憲法八九条(政教分離原則)に違反する。

(1) 小学校施設を使用することは、例えばパチンコ屋の駐車場を使用するのとは訳が異なり、正遷宮行事を三田市教育委員会、三田小学校公認の地域の祭りとして住民に認知させ、住民を洗脳し、三田天満神社信仰を広く普及させる効果を持つ。

(2) のぼりさしは、日常頻繁に行われる行事ではなく、二五年に一度の正遷宮などのあった場合に盛大に行われるものであり、したがって、一般人がのぼりさしから想起するのは正遷宮のみであって、神事としての性質が弱まっていることはない。のぼりさしは、正遷宮行事においては、行事の華であり、このために集った氏子たちに小学校施設を使用させたことは、大きな便益を与えたことになる。

(3) 集った氏子は揃いの浴衣を着用しているが、同浴衣は宗教行事専用の制服というべきものであり、これを着て三田小学校に集合したことは、正遷宮行事を三田市教育委員会、三田小学校公認の地域の祭りとして住民に認知させ、住民を洗脳し、三田天満神社信仰を広く普及させる効果を持つ。

(4) 使用人員四〇〇〇人もの人員を収容できる施設は他になく、仮に作れば巨額の費用がかかる。したがって、三田小学校施設を使用できるか否かは、正遷宮行事が成功するか否かを左右するから、その使用を認めたことは、三田天満神社に大きな財政的援助を与えたことになる。

2  三田小学校の近隣には、右行事のために使用された三田小学校の運動場及び体育館に相当する賃借可能な民間の施設はなく、したがって、右行事主催者が、右行事を実施するためには三田小学校の運動場及び体育館に相当する簡易施設を作るしかない。簡易施設(四〇〇〇人収用のための土地、テント、電気、水道、トイレ等)の建設及び撤去・復元工事に要する費用は、推定で三〇〇万円であり、同額が三田市の当然受け取るべき金額であるから、三田市には同額の損害が発生している。

3  被告は、長年にわたり北区自治会の会員であり、区長などを歴任し、三田天満神社の例祭にも毎年参加しており、また、北区規約からも同神社の例祭が神社神道行事であることを認識していたのに、故意又は重大な過失により、違法な許可の決裁をし、その上使用料を免除して、三田市に対し損害を与えたものであるから、その損害を賠償する責任がある。

4  よって、原告は、被告に対し、法二四二条の二第一項四号前段により、又は怠る事実の相手方として同号後段により、三田市に損害を賠償することを求める。

五  被告の主張

本件使用許可、使用料免除が違法であるとの主張、損害額及び被告の責任についての主張は、いずれも争う。

1  憲法八九条違反との点について

(一) 憲法八九条は、「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、・・・これを支出し、又はその利用に供してはならない。」と定めている。

ここにいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、宗教と何らかのかかわり合いのある行為を行っている組織ないし団体のすべてを意味するものではなく、国家が当該組織ないし団体に対し特権を付与したり、また、当該組織ないし団体の使用、便益若しくは維持のため、公金その他の公の財産を支出し又はその利用に供したりすることが、特定の宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になり、憲法上の政教分離原則に反すると解されるものをいうのであり、換言すると、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解されている(最高裁第三小法廷平成五年二月一六日判決・民集四七巻三号一六八七頁)。

また、憲法八九条が禁止している「公金その他の公の財産を宗教上の組織又は団体の使用、便益又は維持のために支出すること又はその利用に供すること」とは、公金支出行為等における国家と宗教とのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるもの、すなわち、当該行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうのであり、そして、ある行為が右にいうような行為に該当するかどうかを検討するに当たっては、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなければならないとされている(最高裁大法廷平成九年四月二日判決・民集五一巻四号一六七三頁)。

(二) 本件使用許可は、三田天満神社正遷宮行事に奉納されるのぼりさしに参加する校区住民の休憩場として三田小学校の運動場及び体育館を使用することを許可したものである。

神道は宗教的色彩が極めて希薄であるが、三田天満神社もその例にもれない。そして、三田天満神社正遷宮(神社で神殿を新造・修理する際、神座を移すこと、また、その儀式を「遷宮」といい、そのうち本殿から仮殿へ移すのを「仮殿遷宮」、仮殿から本殿へ移すのを「正遷宮」という。)は、二五年を式年として行われることになっているが、近年においては、三田市内にあらたに形成されたニュータウンの多くの住民が「ふるさとの祭り」として参加するなど、益々宗教的な色彩を薄めていっており、地域全体の習俗的行事としての性質が濃いものとなっている。

また、「のぼりさし」は、もともとは各神社の正遷宮に近在の部落から祝賀の意を表するために改装のなった神社に幟を奉納する神事であるが、市民会館の落成記念民俗芸能祭に出演し好評を博するなど、時を経るにつれ、神事としての性質を弱めていき、現在では、単なる民俗芸能・郷土芸能というべきものとなっている。

そのうえ、三田小学校の運動場又は体育館において、神事そのものやのぼりさしが行われたわけではなく、のぼりさしに参加する者の休憩場として使用されたにすぎない。

したがって、本件使用許可をもって、憲法八九条ないしは政教分離原則に反する行為とはいえない。

(三) 本件使用許可申請は、三田天満神社正遷宮実行委員会からなされ、同実行委員会に対して使用許可がなされたものであるが、三田天満神社正遷宮実行委員会は、正遷宮行事のためだけに結成され、その行事が終わると直ちに消滅するもので、そもそも組織や団体とも言い難い。

また、正遷宮行事は、前述のとおり宗教的な色彩が極めて希薄な地域全体の伝統的習俗的行事であり、三田天満神社正遷宮実行委員会は、そのような行事を行うことを目的とするもので、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とするものではない。

したがって、三田天満神社正遷宮実行委員会は、憲法八九条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に該当しない。

2  使用料の免除の点について

三田天満神社正遷宮は、宗教的色彩が極めて希薄な地域全体の伝統的習俗的行事であり、三田小学校の運動場及び体育館は、そのような行事に参加する地域住民の休憩場等として使用されるものであることから、被告は、本件使用許可申請が本件使用条例七条(1)の「公益のために使用する場合」に該当すると判断し、本件使用許可にあたり使用料を免除したものである。

なお、三田市教育委員会では、教育施設目的外使用料減免基準に関して内規を定めており、本件使用条例七条(1)の「公用に供し、又は公益のために使用する場合」に関しては、次のような場合の使用申請について使用料を減免する扱いとしている。

① 国・県・市の主催する事業等

② 地域活動(当該校区内での使用)

ア 自治会、婦人会、老人会、子供会、体育振興会の諸行

(例)総会、役員会、廃品回収、地区運動会、スポーツ大会等

イ 消防団の訓練

本件使用許可については、地域活動、自治会の行事に該ると判断し、使用料を免除したものである。

第三当裁判所の判断

一  被告の本案前の主張1(財務会計行為性)について

1  原告の本件訴えは、①本件使用許可処分が財務会計行為であることを前提に当該職員である被告に対する法二四二条の二第一項四号前段による損害賠償請求、②使用料の免除が財務会計行為であることを前提に当該職員である被告に対する同号前段による損害賠償請求、③使用許可、使用料免除が財務会計行為に該当しないとしても、被告が違法な使用許可、使用料免除を行ったことに基づいて発生する三田市の被告に対する実体法上の損害賠償請求権の不行使を違法、不当とする財産の管理を怠る事実の相手方に対する同号後段による損害賠償請求を主張しているものであると解される。

2  法二四二条の二に定める住民訴訟は、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とし、その対象とされる事項は、法二四二条一項に定める事項、すなわち公金の支出、財産の取得・管理・処分、契約の締結・履行、債務その他の義務の負担、公金の賦課・徴収を怠る事実、財産の管理を怠る事実に限られるのであり、右事項はいずれも財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものである。

したがって、原告の法二四二条の二第一項四号による本件訴えが適法といえるためには、被告の行為が財務会計上の行為としての財産管理行為に当たる場合でなければならず、財産管理行為とは、当該財産の財産的価値に着目して、その価値の維持、保全を図る財務的処理を直接の目的とする行為をいうものと解される(最高裁昭和六二年(行ツ)第二二号平成二年四月一二日第一小法廷判決・民集四四巻三号四三一頁参照)。

3  そこで、原告の請求のうち、前記①の本件使用許可処分を対象とする法二四二条の二第一項四号前段の請求の適法性について検討する。

前記第二の一の前提事実及び証拠(甲4)によれば、三田市が市立学校施設の目的外使用について定めた本件使用条例には、学校施設を目的外に使用しようとする者に使用申請書を提出させ(三条)、許可しようとするときは学校長等の意見を聞かなければならず(四条)、当該学校又は幼稚園において使用の必要を生じたときは、使用の許可を取り消し、又は使用を停止し若しくは制限することができる(一二条)と定められていることが認められるから、本件使用許可は、行政財産である小学校施設の目的外使用を施設管理者の見地から許可する教育行政担当者としての行為であることが明らかであって、学校施設の財産的価値に着目し、その価値の維持、保全を図る財務的処理を直接の目的とする財務会計上の行為としての財産管理行為には当たらないと解するのが相当である。そうすると、被告が本件使用許可をした行為は法二四二条の二に定める住民訴訟の対象となる行為とはいえないから、本件使用許可を対象とする同条一項四号前段の請求は、不適法というほかない。

4  次に、前記②の使用料の免除を対象とする法二四二条の二第一項四号前段の請求の適法性について検討する。

地方公共団体は、行政財産の目的外使用許可を受けてする行政財産の使用につき使用料を徴収することができるところ(法二二五条)、前記第二の一の前提事実によれば、三田市においては、本件使用条例が制定され、その五条により原則として使用料を徴収することとされているから、使用許可により使用料の徴収義務が生じることになる。この使用料は、行政財産の目的外使用に対しその反対給付として徴収される公法的性質を有する負担であると解され、その行政財産の維持管理費又は減価償却費に当てられるべきものであると解される。そうすると、使用料の徴収は、学校施設の財産的価値に着目し、その価値の維持、保全を図る財務的処理を直接の目的とする財務会計上の行為としての財産管理行為に該当し、使用料を免除する行為も、同様に財務会計上の行為としての財産管理行為に該当するものと解するのが相当である。

被告は、使用料を徴収するかどうかは、行政財産としての用途、目的を妨げない限度において許可するという判断と一体となっていると解すべきであり、許可処分と使用料免除という行為を区分して考えるべきではない旨主張するが、使用料に関する事項については条例で定めることを必要とし(法二二八条)、条例で使用料徴収を定めれば、使用料の減免をしない限りその徴収が義務付けられるのであり、その減免処分が加わることによって徴収義務がなくなるのであるから、使用許可と使用料免除とは別個の処分であると解される。これを一体とする被告の主張は採用できない。

5  また、前記③の法二四二条の二第一項四号後段の請求は、怠る事実の相手方に対する請求、すなわち、被告の行為が財務会計行為に該当しないとしても、被告が違法な使用許可、使用料免除を行ったことにより生じた不法行為に基づく三田市の被告に対する損害賠償請求権の行使を三田市が怠っていることが財産管理を怠っていることに該当するとして、右損害賠償請求権の相手方たる被告に対して、三田市に代位してその損害の賠償を求めるというものであると解される。

そうすると原告の同号後段請求は、被告が違法行為を行ったことにより実体法上生じる請求権の行使を怠った事実を対象とするものであり、不適法とはいえない。

二  被告の本案前の主張2(監査請求と本訴との同一性)について1 証拠(甲1、2)によれば、原告は、平成一〇年九月二四日、「平成一〇年四月一二日、天満神社正遷宮祭行事に、三田小学校が使用された。これは憲法八九条の規定に違反する。三田小学校校長を懲戒処分をすること。また、三田小学校の使用料を無料にしていた場合は使用者に相当額を請求すること。」との監査請求をしたこと、三田市監査委員は、平成一〇年一〇月一六日同監査請求を却下したことが認められる。

2 右事実によれば、三田天満神社正遷宮のために三田小学校施設の使用料を免除したことを監査請求で問題としていることが明らかであり、原告が本訴で問題としている被告の使用料免除について、監査請求を経たものと認められ、さらに、右監査請求は怠る事実の相手方である使用者に使用料の相当額を請求することを求めていることから、使用許可・使用料免除行為が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使を違法、不当とする財産の管理を怠る事実についての監査請求をもその対象として含むものと解するのが相当であり、これと異なる解釈をする特段の事情もない。そうすると、原告の本訴請求は、監査請求前置の要件を満たしているということができる。

三  本件の事実関係について

証拠(各項掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  三田天満神社

三田天満神社は、法人名を「天満神社」とし、「菅原道真、大歳大神、伊弉諾尊、伊弉冊尊、大己貴大神、少彦名命を奉齊し、公衆礼拝の施設を備へ神社神道に従って祭祀を行い、祭神の神徳をひろめ本神社を崇敬する者及び神社神道を信奉する者を教化育成し社会の福祉に寄与し、その他本神社の目的を達成するため財産管理その他の業務を行うことを目的とする」宗教法人であり、包括団体は宗教法人神社本庁である(甲3、18、47)。

2  三田天満神社正遷宮(祭)

三田天満神社正遷宮(祭)は、二五年に一度、神社の修復を行い、修復期間中別の場所に移していたご神体をあらためて本殿に戻す際に行われる祭事である。「砂持ち行列」「花地車」「のぼりさし」などが行われる。

のぼりさし(「幟差し」、「のぼり指し」ともいう。)は、二五年に一度の正遷宮に、改修が終わった神社へ、近在の集落から祝意を表して幟を奉納する神事であり、若者が、高さ一〇メートル程の竹竿に反物を三から五本取り付けたのぼりを差し上げ、列をなして練り歩くものであり、江戸時代に始まったものといわれている(甲14、56、乙1、2、14)。

3  平成一〇年四月の正遷宮

平成一〇年四月の正遷宮は、同月一〇日から一二日までの三日間行われた(甲56)。

同月一〇日は、式典神事、雅楽の舞などが神社内で行われ、その後、天神公園会場において、鏡割りや祝宴が行われた(甲28、56、58)。

同月一一日は、市内三か所から着飾った子供たちが清めの砂の入ったかごを棒で担いで練り歩く「砂持ち行列」が出発し、所定の順路を通って三田天満神社まで歩き、同神社では境内を清めるために子供たちの手で砂を撒いた。また、のぼりさしののぼりを中心にして、子供の笹のぼりを先頭に、最後尾にお祝いの紅白のもちを積んだみこしの行列を組み、鐘や太鼓、笛で音頭を取りながら行進する「のぼりさし行列」が、近隣の各地区の神社から出発して、正午頃に三田小学校に集合し、同所で休憩、時間調整をした。のぼりさし行列は午後から三田天満神社境内に入り、梯子の上でのぼりを差したり、音頭にあわせて差し上げたりする曲芸を披露した(甲7、56、58、59、乙2)。

同月一二日は、飾り付けた花地車が町内を巡行したほか、菅原道真の像を乗せた牛車を先頭にその後に音頭隊が続く行列が巡行して、神社へ至った。午前中に各地区ののぼりさし行列が出発し、町内を練り歩いた後、三田小学校で休憩した。同所から氏子五区が順次神社境内へ入り、境内で揃ってのぼりを差し上げたりして、のぼりさしを行った後、のぼりを奉納した(甲6、56、58)。

4  三田天満神社正遷宮実行委員会

三田天満神社正遷宮実行委員会は、今回の正遷宮に奉賛するために組織されたものであり、組織、運動に永続性はなく、一過的な組織であるが、顧問、会長、会長代行・氏子総代長、区長会会長の役職が置かれ(甲3)、各地区の区長及び氏子総代をもって組織されている(ただし、その組織、構成の詳細を明らかにする証拠はない。)。実行委員会の下に各地区実行委員会が設けられており、そのうち南区実行委員会は、区長を実行委員長として、そのもとに祭礼、後宴、会計、記録の部が設けられ、各部は青年会、子供会、老人会、役員などによって組織される構成になっており、各部の外に幟、太鼓、鐘、笛、音頭の指導責任者が定められている(甲27)。

5  地区の自治会と正遷宮

地区住民の多くは自治会員であると同時に神社の氏子となっており、自治会役員の他に、氏子総代、副総代、年番、神楽運営委員、御輿担ぎ、天神講当番という祭事関係の役員が地区の役員として定められている(甲33)ほか、自治会の総会における自治会の事業報告の一つとして三田天満神社正遷宮や同神社の秋祭りが掲げられたり(甲34)、自治会会計から神社関連費用、正遷宮ののぼりさし関連費用が支出されている地区がある(甲34、35)。また、区長と氏子総代連名で正遷宮への寄付を依頼する文書を配付したり(甲22、23)、区長名で正遷宮の際着用する浴衣の購入を勧め注文を受けたりしている地区がある(甲25、26)。

四  憲法八九条違反との点について

1  憲法は、二〇条一項後段、同条三項、八九条に、いわゆる政教分離の原則に基づく諸規定(以下「政教分離規定」という。)を設けているところ、これは国家と宗教との完全な分離を理想とし、国家の非宗教性ないし宗教的中立性を確保しようとしたものと解すべきであるが、元来、政教分離規定は、いわゆる制度的保障の規定であって、信教の自由そのものを直接保障するものではなく、国家(地方公共団体を含む。以下同じ。)と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである。そして、憲法の政教分離規定の基礎となり、その解釈の指導原理となる政教分離原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家が宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いが、我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものと解すべきである(最高裁昭和四六年(行ツ)第六九号同五二年七月一三日大法廷判決・民集三一巻四号五三三頁、同昭和五七年(オ)第九〇二号同六三年六月一日大法廷判決・民集四二巻五号二七七頁、同平成四年(行ツ)第一五六号同九年四月二日大法廷判決・民集五一巻四号一六七三頁参照)。

右政教分離原則の意義に照らすと、憲法八九条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、宗教と何らかのかかわり合いのある行為を行っている組織ないし団体のすべてを意味するものではなく、国家が当該組織ないし団体に対し特権を付与したり、また、当該組織ないし団体の使用、便益若しくは維持のため、公金その他の公の財産を支出し又はその利用に供したりすることが、特定の宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になり、憲法上の政教分離原則に反すると解されるものをいうのであり、換言すると、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解するのが相当である(最高裁昭和六二年(行ツ)第一四八号平成五年二月一六日第三小法廷判決・民集四七巻三号一六八七頁参照)。

また、憲法八九条が禁止している公金その他の公の財産を宗教上の組織又は団体の使用、便益又は維持のために支出すること又はその利用に供することというのも、前記の政教分離原則の意義に照らして、公金支出行為等における国家と宗教とのかかわり合いが前記の相当とされる限度を超えるものをいうものと解すべきである(前掲最高裁平成四年(行ツ)第一五六号同九年四月二日大法廷判決参照)。

2  そこで、右説示の観点に立って、三田天満神社正遷宮実行委員会が憲法八九条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に該当するか否かをみるのに、前記三認定の事実によれば、三田天満神社正遷宮実行委員会は、宗教団体である三田天満神社の祭事である正遷宮に奉賛するための氏子の組織であって、神社の祭事が神道の宗教活動であることから、宗教的色彩を帯びた事業を執り行う組織ということができる。

しかしながら、正遷宮は二五年に一度行われるものであって、三田天満神社正遷宮実行委員会は今回の正遷宮に奉賛するために組織されたものであり、組織、運動に永続性はなく、一過的な組織であること、三田天満神社正遷宮実行委員会は、直接に神事を行う主体ではないし、正遷宮の主催者でもないこと、のぼりさしは、もともと神社の改修を祝うための奉納行事であるが、正遷宮祭の中の一行事にすぎず、のぼりを差し上げ、種々の演技をするのぼりさしの演技自体は、伝統芸能的な行為であって、それが、神社の祭礼と結びついてはじめて宗教的意味を有するものであり、その行為自体が宗教儀式とはいえないことを考慮すると、三田天満神社正遷宮実行委員会は、宗教的色彩を帯びたものではあるけれども、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体には該当しないものというべきであって、憲法八九条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に該当しないものと解するのが相当である。

3  被告が本件使用許可をした行為及び使用料を免除した行為が、憲法上の政教分離原則及びそれに基づく政教分離規定に反するものであるか否かをみるのに、右2のとおり、三田天満神社正遷宮実行委員会が憲法八九条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に該当しないと解される上、前記三認定の事実によれば、三田小学校の施設(運動場及び体育館)は、神事を執り行う会場やのぼりさしを披露する会場などとして使用されたわけではなく、のぼりさし行列の参加者の休憩場として使用されたにすぎないというのであり、弁論の全趣旨によれば、使用料が免除されたことは一般に公表されるものではないことが明らかである。

これらの諸点にかんがみると、被告の本件使用許可、使用料の免除は、神社の祭典という宗教的行事に際し、民間の組織、団体に対する通常の貸与と同様に地元参加者の休憩場所としての施設の使用を許可し、使用料を免除するという、専ら世俗的なものであり、その効果も、特定の宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるとまでいうことはできない。したがって、被告の本件使用許可、使用料の免除は、その目的及び効果にかんがみ、宗教とのかかわり合いが、我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法上の政教分離原則及びそれに基づく政教分離規定に違反するものではないと解するのが相当である。

五  使用料免除の違法性について

1  前記前提事実(第二の一4)のとおり、本件使用条例七条は使用料を減額し又は徴収しないことができる場合として、「(1) 公用に供し、又は公益のために使用する場合 (2) 委員会が特に必要と認めた場合」という二つの場合を定めているところ、同条例の施行規則(乙21)では、その第八条で「次の場合は使用料を減免することができる。(1) 三田市立の学校、幼稚園等の主催する教育活動の場合 (2) 社会教育関係団体の教育活動の場合 (3)その他、明らかに上記に類するものと認めた場合」と定めている。

証拠(乙20)及び弁論の全趣旨によれば、三田市における平成九年度の教育施設目的外使用許可は、全部で三〇二件で、大半が地区住民のバレーボール、剣道、少年野球、サッカーなどのスポーツ団体、自治会、婦人会、老人会、子供会、体育振興会などに対するものであり、そのうち使用料を徴収した例は五件で、その余はすべて使用料が免除されていること、使用料を徴収した五件のうち、四件は個人や私的な同好の士が使用したことから使用料を徴収したもの、一件は、音楽練習のための使用であったが使用者が市外の学校であったことから使用料を徴収したものであり、その外に、社会教育関係団体の教育活動に該当するとして使用料そのものは免除したが、使用したガス・電気代の実費相当分を徴収したものが二件あることが認められ、平成一〇年度の教育施設目的外使用許可においても、使用料を徴収した例として、阪神各市交歓大会に使用したフォークダンスサークルの例(甲51)、ガス・電気代の実費相当分を徴収した例二件(甲52、53)などが存することが認められる。

したがって、教育施設目的外使用許可における使用料については、地区住民のスポーツ団体、自治会、婦人会、老人会、子供会、体育振興会の諸行事に対しては、公益のために使用する場合として免除するが、個人や私的な同好の士による使用に対しては徴収する運用がされ、おおむね本件使用条例の規定に沿った運用がされているものと認められる。

2  本件の三田天満神社正遷宮実行委員会による使用については、前記三認定の事実によれば、行事参加者は地域の住民であり、正遷宮がこれまでに地域で永年に亘って繰り返されてきた行事で、自治会員と神社の氏子の範囲が重なることもあって、その是非は別として自治会の活動の一環を占めていると見られること、のぼりさしが地域の伝統的習俗的行事の性格をも有することなどから、地域活動の性格も有するものであることが肯認できるところである。

しかしながら、正遷宮は神事も執り行われる三田天満神社の祭事にほかならず、三田天満神社正遷宮実行委員会は、直接神事を行い祭事を主催するものではないが、神社の氏子により組織された祭事の実行委員会であって宗教的色彩を帯びた組織であり、自治会などの公益的組織、団体と異なるものであることは明らかであるから、同実行委員会に学校施設を使用させる場合は、本件使用条例が定める使用料を減免できる「公益のために使用する場合」に該当しないと解するのが相当である。

そうすると、三田天満神社正遷宮実行委員会の教育施設目的外使用について、その使用料を免除することは、本件使用条例に違反するというべきであり(使用料免除が憲法上の政教分離原則及びそれに基づく政教分離規定に反しないことは、前記四説示のとおりである。)、被告は、右使用料免除により、本件使用条例五条の別表(前記第二の一4)に定める使用料に相当する額、すなわち屋内運動場(体育館)一日分三三〇〇円(800円+1000円+1500円)、運動場一日分九〇〇円(400円+500円)の二日分合計八四〇〇円の損害を三田市に与えたというべきである。なお、原告は、三田市が被った損害の額は、三田小学校の運動場及び体育館に相当する簡易施設の建設及び撤去・復元工事に要する費用相当額三〇〇万円である旨主張するが、右主張は、使用許可が違法であることを前提とするものであって、前提を異にするし、その主張する損害が生じるものとも解されないから、採用できない。

六  被告の責任等について

以上の説示によれば、本件使用許可、使用料免除の専決者である(当事者間に争いがない。)被告は、三田天満神社正遷宮実行委員会に対して、使用料を免除できない場合であるのに、誤ってその使用料を免除して三田市に八四〇〇円の損害を被らせたということになる。

ところで、法二四三条の二第一項が職員の損害賠償責任発生の要件として、原則として故意又は重大な過失を要するものと定めていることにかんがみると、職員が同条項に定める事項以外の職務の遂行について行った違法行為により地方公共団体に損害を与えた場合についても、職員は、違法行為をするにつき故意又は重大な過失があった場合に限り損害賠償責任を負うものと解すべきである。

これを本件についてみるに、前記五に説示のとおり、三田天満神社正遷宮実行委員会による使用は、行事参加者が地域の住民であり、現実には自治会の地域活動の性格をも併せ有するものであることからすると、本件使用料の免除が本件使用条例に違反するか否かを極めて容易に判断することができたとまではいえないから、被告が本件使用条例の公益のために使用する場合に該当すると判断して使用料を免除したことは、その判断を誤ったものではあるが、著しく注意義務を怠ったものとして重大な過失があったということはできない。

そうすると、結局、被告は損害賠償責任を負わないというべきである。

七  結論

以上によれば、原告の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田口直樹 裁判官 大竹貴)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例